人気連載「マシューのグルメ評論」
ザ・ビストロ – グルメ・レストラン情報
ザ・ビストロ
The Bistro
(ザ・ビストロは、2007年4月に閉店いたしました。) ●落ち着いた雰囲気と一流の調度品 「今日は、ザ・ビストロへ行こう!」、そう思うだけで、自然と笑みがこぼれて、舌がとろけそうになる… と言えばここがどんなレストランかイメージが湧いてくるんじゃないかな? エレベーターの扉が開き、店内へ一歩踏み出すと、ほの暗い室内に浮かび上がる洗練されたインテリアと、きらめくガラスで覆われた壁一面のワイン棚に目を奪われてしまう。ワイン棚の数は、なんと127もあるんだ。タキシードを着たスタッフがにこやかに出迎えて、優雅な足取りで世界に300台しかない8万7000ドル(約1千万円)もする限定の小型グランド・ピアノの横を通って、テーブルまで案内してくれる。
室内はリッチでクラス感あふれる落ち着いたムード。奥には暖炉が置かれていて温かい雰囲気を演出しているんだ。そして、隣のテーブルのおしゃべりが聞こえてこないように、一つ一つのテーブルが十分な間隔を空けて配置されてあるのは本当に嬉しいね。暗めにセッティングされた照明は、ロマンチックな食事を楽しむにはもってこいのシチュエーションさ。もちろん、商談にもうってつけ! こんな雰囲気の中で、ビジネスの話をすれば、うまくいかなかったこともおかしいぐらいに丸く収まるんじゃない? でも、「いきなりこんなお店でディナー食べるなんて緊張しちゃう」って言う人は、ランチタイムがおすすめ。セミ・フォーマルのサービスだから、「ちょこっとお洒落」して、出かければ大丈夫。メニューにはフレンチ、イタリアン、ドイツ料理など、ヨーロッパの料理がリストアップされているから自分の好みでオーダーするといいね。でも、「うんとお洒落をしてハワイの夜を楽しみたいという人」には、断然ディナータイムに行って欲しい。フォーマルなテーブル・サービスを受けながら、本格フランス料理とパシフィック・リム・キュイジーヌをゆったりと堪能できるよ。 |
●珠玉のメニューの数々 まずは、僕が舌を唸らせた前菜から紹介しよう。バーガンディー・バター・ガーリックソース(舌を噛みそうな名前でしょ?)で焼かれたエスカルゴは、過去に僕が食べたエスカルゴの中でもトップクラスだな。そして、サラダとパリパリのトーストが添えられたフォアグラは、信じられないほどコクと旨味があって、ポート・ワインやソーテルヌ・ワインのように甘いワインと抜群の相性だよ。甘さと風味、そして食感の生み出す素晴らしいハーモニーに、ひそかに僕は心の中で「ザ・ビストロ」への喝采をおくったね。スタンディング・オベーションならぬ、「シッティング・オベーション」。立って拍手してもいいぐらい感動したんだけど、それじゃ、お店からつまみ出されちゃうからさ。座って、そっと心の中で拍手! で、もうひとつの前菜は、アヒ(マグロ)とサーモン、そしてタルタル・ステーキ(生の牛肉をみじん切りにして玉ねぎなど薬味や塩コショウなどの調味料で味をつけたもの)。僕の大好きなお肉と魚が三者三様に生のままでお皿に並んでるんだけどさ、これを味わったときは、昔、最高級のレストランで味わった逸品を思い出したね。
ここのランチのメニューには、本当に卓越した料理が並ぶんだ。柔らかい子牛の肉を薄くのばし、からりと揚げたウインナー・シュニッツェルは、ドイツ・スタイルのシュペッツレと赤キャベツが添えられるんだ。ラム・シャンクと子牛のほほ肉は、骨から肉がとろけ落ちるまでじっくり時間をかけて蒸し煮にされた一品。これを食べた瞬間は、自分の頬も一緒に落ちるんじゃないかと本当に心配したね。
それから、ディナータイムにぜひ味わって欲しいのは、細切りポテトの上にのって出てくる「ホタテ貝の前菜ブール・ブランソース添え」。フランスの伝統料理、オニオン・スープは、塩気がきいたチーズが際立つ美味しさなんだ。テーブルの横でウェイターが準備してくれるシーザー・サラダは、ロメイン・レタスの柔らかい部分だけを使っているから食べ易いし、熱いベーコン入りフレンチ・ドレッシングがかかったほうれん草のベビー・リーフ・サラダは、少ししんなりなった食べ頃を見計らってテーブルに運ばれるんだよ。このタイミングもいいんだよねぇ。 |
●おいしさが止まらない 料理の合間に出てくる、口休めのレモン・シャーベットはさっぱりとしていて、「この次は一体何が出てくるんだろう?」って期待がどんどん膨らんでいくんだよね。
そして、ついに登場するのがコレ! 待ってました、今夜のメイン・イベント! 老若男女を問わずこのレストランで大人気のステーキ・ダイアンは、フィレミニョンをテーブルの横でフランベしたもの。もちろん、ブランデーでフランベするので火がボーっと燃え上がる! それを見て、いつも思わず「おぉーっ」と驚いてシェフの顔を見ると、意外と冷静。まぁ、シェフはこれをほぼ毎日やってるんだろうしな。でもそんなシェフと僕との温度差が悔しいから、いつも「今日こそはシェフのように冷静にしていよう!」と心に誓うんだけど、おいしい料理を食べていると素直に喜んじゃうんだよね。そんな僕、今年48歳… そして、ブランデーと一緒にニンニク、エシャロット、オレガノ、クリームやマッシュルームもフランベ。こうして、食いしん坊の僕の大好きな一品は出来上がるってわけ。他には、子羊のあばら肉、鴨のオレンジソースも、メニューとしては目新しいものではないけれど、好きな料理の一つかな。
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そして、コースの最後は、なんと言ってもデザート。デザートにも、フランベが盛りこまれているものがいくつかあるんだ。もうここまで来たら、フランベ祭りだよ。「チェリーズ・ジュビリー」はオレンジの皮、シナモン、チョウジで、「バナナ・フランベ」はシナモンとバター・スコッチでそれぞれ風味付けをしたソースをアイスクリームにかけるんだ。もちろん、ここでも、燃え上がる炎にもう一驚きしちゃうんだよね。そして、またシェフの思う壺なわけよ… でもさ、目の前でこのデザートが出来上がるまでの「ショー」を、ワクワクしながら見るのもなかなか楽しいんだよね。そんな僕、今年48歳…
さて、そんな料理の数々を生み出しているのがビストロのシェフ、ロドニー・ウエハラ。彼が作る料理は、どれも魅力的で食欲をそそるものばかりだよ。夜遅く訪れる人のためのレイト・ナイト・メニューも用意されているのも憎いよね。見事なまでにお客の心をがっちりとつかむのには、洗練された雰囲気もさることながら、こういう配慮が随所にされているからなんだろうな… 店内にある美しい木目のバー・カウンターや至るところに飾られた一流の芸術品は見ているだけで素晴らしいし、洗面所に用意された洗口液、駐車サービスに至るまで、細かいところにまでサービスが行き届いていて、快適に過ごせるための演出がされているんだ。
読者の皆さんには、最初にランチタイムに訪れて、スタッフのサービスのきめ細かさを経験してみることをオススメするよ。店の雰囲気や接客態度、料理のクオリティの高さを考えると、とても良心的な価格だと納得すると思う。ディナータイムは、もう少し高くつくけど、ここは正装して出かける価値のあるとびきりの場所だね。 |
グルメ評論家、マシュー・グレーのプロフィール |
ハワイの人気グルメ評論家。エグゼクティブ・シェフやレストラン評論家として活躍した豊富な知識と経験を活かし、現在はファイン・ダイニングからB級グルメまでハワイの幅広いレストランを対象としたユニークなグルメ・ツアーを主催している。マシューは、80年代から90年代にかけて、ハリウッドの映画スターや有名政治家らのセレブ御用達シェフとして活躍。カリフォルニアで起業したフードショップも成功を収め、彼の名は雑誌やテレビを通して全米で広く知られるようになった。1993年にハワイに移住後は、地元紙「ホノルル・アドバタイザー」のレストラン評論家として歯に衣着せないストレートなコメントの掲載を開始。地元ハワイはもとより、アメリカ本土からも熱烈な支持を受けた。「ハワイの美味しい食事と料理の楽しみを多くの人々と共有したい」という考えから2004年に始めたグルメツアーは、彼自身がガイドを務め、ハワイの食文化の紹介や食にまつわる豊富な体験談などを交えながら、おすすめのレストランをまわるというもの。数々のメディアにも取りあげられる人気ツアーとなっている。 >>グルメツアーの予約はこちら >>グルメツアーの記事を見る |
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(2006年8月取材)
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