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ハワイ歩き方事務局
人気連載「今夜も玉突き」

第03回 悔し涙をのんだ夜

投稿者: ハワイ歩き方事務局 更新日:2004年10月21日

第3回 悔し涙をのんだ夜


カハラモール近くのスポーツバー

努力しない門下生!?
万次郎師匠の門を叩いて以来、ビリヤードについて色々教わり、知識は身についたものの、やっぱり「ストレートに打つことができない」という課題で悩んでいました。それでも、「やってれば、そのうちにうまくなるさー」なんて、楽観的に構えていたのです。師匠に、「鏡を見てストロークの練習してる?」と聞かれても、「はい」なんて嘘をつき、「人知れず自主練習」なんてことは全くしてなかったんです。ビリヤードをするのも、スポーツバーでのゲームのみ。実は小さい頃から、「努力」という2文字が大嫌いなんです。やりながら覚えていく、体当たりタイプなんですね。そして、5カ月ほど師匠について教わっていたある日のこと。2人の友人といつものようにスポーツバーに繰り出しました。カハラモールの近くにある、そのスポーツバーのビリヤード台には、多くのプレーヤーがクォーターコインを置いて順番待ちをしていました。プレーをしている人たちを見ると、どうやら2人1組のチームになって対戦しているようだったので、私たちもチームで挑むことに。一緒に行った友人2人が1チームに、私はバーにいた「ケン」というおじさんとチームを組むことにしました。待つこと1時間、友人たちの番が回ってきて、前のゲームの勝利チームと対戦です。


足首にワンポイントとして入れているタトゥー

●ロコはタトゥーがお好き?
ジョアンという女の子と、サムという日系人のおじさんが友人たちの対戦相手。友人たちを応援しながらゲームを見ていると、ジョアンの腰の辺りに、なにやら黒い文字。「ん? 美しい…?!」。彼女が遠くの玉を打とうとしたその時、着ていたTシャツが少しめくれ上がり、腰に入れたタトゥーが見えたんです。そこには、自信ありげに浮かび上がる「美しい」の3文字。実は、ハワイのロコ達は結構タトゥーを入れているのです。日本人にはちょっと抵抗があるこのタトゥーですが、彼らは「アート」として捕らえてるのか、豪快に手や背中に入れたり、足首や腰にワンポイントとして入れている人も多いのです。半永久的なアクセサリー感覚なのかもしれません。しかし、このタトゥー、蝶や星などかわいい絵柄もありますが、中には「え?」と目を引くものもあって、なかなか面白い 興味深いことに、彼らの最近の流行は我らの母国語。そう、「日本語」なんです 特に「漢字」は「クール(カッコイイ)」とされているらしく、よく見かけます。ただ、ちょっとオリジナリティーに溢れすぎているものもあって、他人事ながらちょっと心配してしまうことも。ジョアンの「美しい」も間違ってはいないものの(実際、彼女はかわいかった)、謙虚な日本人!? には少し刺激的過ぎますね。なかなか、自分で「美しい」とは言い切れません。やはり、自己主張の国、アメリカだからでしょうね。そんなジョアンとサムの2人に、私の友人たちは見事なまで? の試合運びで、あっけなく勝負を決めてしまいました。

●行く手を阻むチキン・ガイズ
最初のゲームに勝った友人たちは、その後も順当に勝ち進んでいきました。3ゲーム目の8ボールを落として勝った彼らが、次なる挑戦者を待っていると、バーのカウンターに座っていた2人の男性がスクッと立ち上がって、こちら側に歩いてきます。1人は笑福亭鶴瓶に似ている小太りのおじさん、もう1人は久米宏似の背の高いおじさん。年のころは2人とも40代といった感じで、2人とも早い時間からここにいるのか結構な酔っ払いです。しっかし、この酔っ払いのオジサン2人組が後に波乱を巻き起こすとは、誰も想像だにしなかったのです。


チキン・ガイズを前に次々と倒れる挑戦者たち

このバーの常連らしき酔っ払いのオジサンたちは、私の友人たちとなかなかいい勝負。一進一退の攻防が続く、緊迫したゲームです。でも、酔っ払いだということに加え、「若い者には負けない」という変な意地があるのか、ゲーム中、友人たちを心理的に追い込もうと必死になってるんです。普通、どんなに「勝ちたい」と思っても、相手が打つ時は、黙って見守るのが暗黙の了解と決まっています。世界各国共通であるはずの正々堂々と戦う「スポーツマンシップ」は、ビリヤードにも当てはまります。それなのに、このオジサンたち、友人たちが打とうと狙いを定めて集中していると、横槍を入れてくるのです。「どうせ、入れられないだろ」とか「失敗するぞ」とか、とにかく子供みたいなことをずーっと言ってるんです。最初は無視していた友人たちも、我慢ならなかったのか、「黙って座って、俺のショットを見ておけ」なんてオジサンたちを挑発。それが、かえってオジサンたちの闘志に火をつけたのか、ますます熱くなって、ゲームの間ヤジをやめることはありませんでした。そして、調子を狂わされた友人たちは結局、僅差で負けちゃったんです。でも、勝負は勝負。負けた友人たちは退場、オジサンたちは次なる挑戦者とゲームを開始したのでした。

負けた後、オジサンたちが、そのあとのゲームでも、同じように対戦相手の調子を狂わせようとしている様子を見て、「あのチキン・ガイズめ」と、怒りが納まらない友人たち。「チキン」とは、「弱虫」を比喩的に表現する英語独特の言い回しなのです。自分たちのビリヤードのスキルだけでは勝てないと思ったオジサンたちの大人気ない行動が、まさに「チキン」そのものだと感じたんでしょうね。

●友人の仇
そのチキン・ガイズは、その後も次々とバーにいたプレーヤーを倒していきました。1度も負けることなく。そして、「次の相手は誰だろう?」なんて、お酒を飲みながら悠長に眺めていると、さっきチームを組んだケンが「ノリコ、僕らだよ」と呼んでいます。「げっ、この人たちと戦うの? 勘弁してよ〜」と、いやいやな私に、チキン・ガイズに負けた挑戦者たちが「次、君なの? 頑張って。仇取ってきてよ」なんて、声をかけてくれます。応援してくれるのは嬉しいけど、「そうプレッシャーをかけないでくれーっ」。でも、クォーターを置いた手前、辞退することもできず、仕方なくテーブルへ。いよいよ、チキン・ガイズとの対戦です


チキン1号ショット なかなかやります

ブレイクはもちろん、前のゲームの勝利者であるチキン・ガイズ。鶴瓶似のチキン1号が撞いたキューボールは「パーン」と音を立てて、ラックした玉をテーブルの上にきれいに散らばせました。勢いのあるブレイクは、2つのストライプの玉をポケットに吸い込んで、引き続きチキン・ガイズのショットとなりました。「ニヤリ」と笑って、次に狙う玉を見定め、ポケットをコールした後、ショット。「パーン」。チキン1号、なかなかやります。3玉ほど連続していれたところでミスし、我らがケンにバトンタッチ。ケンも結構うまくて、連続4玉入れましたが、ミスしてしまい、再びチキン・ガイズのショット。こうして何度かシーソーゲームの後、テーブル上には私たちの2番の玉と最後に落とす8番の玉しかない状態で、私の番が回ってきました。


一直線に並んだボールまさに「behind the eight ball」状態

ここで、私が2番と8番を続けて入れることができたら、もちろん私たちの勝ち。でも、外したら、きっとチキンガイズは8番を難なく入れてしまうことでしょう。そして、彼らの水戸黄門にも勝るとも劣らないような高笑いが、バー中に響き渡るのは必至です。そうなったら、私はみんなに顔向けが出来ない 「仇を取ってきて」と、あんなに言われたのに… などと、いろんな思いが駆け巡る中、私はショットの準備をしました。しか〜し、ここで大問題 なんと、私たちの2番の玉が8番の玉の向こう側にあるではないですか。キューボール、8番、2番がちょうど一直線上に並んでいるのです。大ピ〜ンチ 文字通り「behind the eight ball」状態。直訳すると「8番ボールの後ろ」、つまり「不利な状況、窮地に陥っている状況」のことを言います。ビリヤードの8ボールのルールが、一番最後に8番ボールを落とさなければならないので、キューボールが8番ボールの後ろにある場合、それを打つとまずいことになるという状況から、このような熟語ができたようです。しかし、まさに私が、「behind the eight ball」の状態そのものに陥ろうとは、誰が予測したでしょうか(人生そのものじゃなくって良かったわ)。


スーパーショットなるか!?

みんなが固唾をのんで見守る中、悩んだ挙句、私の選んだ答えは「バンク・ショット」。バンク・ショットとは、テーブルのヘリを使い、跳ね返して自分の狙いたい玉にキューボールを当てるというショットなのです。これは、角度がちょっとでも違うと、とんでもない方向にいってしまうため、私のような初心者向けの技ではありません。しかし、この状態では、それしか方法がなかったのです。テーブルの向こう側のヘリに向かって打って、それによって跳ね返ったボールが2番の端に当たり、そのまま真っ直ぐ2番の玉が転がってくれればポケットに入るはず。あくまでも理論上は… 難易度5という最高に難しいショットを選びながらも、不安を隠せずに、何度も角度を確認しました。時間をかけて何度も。周りも、「ここまで、よく健闘したよ」と、打つ前から既に諦めムードの中、狙いを定めてショット すると、計算しつくされたキューボールは、私の予想通り、きれいにバウンドして2番の玉に当たりました。そして、ゆっくり、ゆっくりポケットに向かって一直線に転がっていきます。「行け〜、行け〜!!」という私の声に応えるかのように、玉がポケットに入ったのです 「うぉーっ!!」。その瞬間、バー中が歓声に包まれて、私も嬉しさのあまり興奮して、敵であるチキン2号に抱きついてしまいました。

バー中にいた人たちが私のところへ駆けつけて、「すごいよ。すごいよ」と言ってくれます。我ながら惚れ惚れするほどのスーパーショット 「キャーッ、私、カッコイイ…」なんて思いながら、次のショットの準備に入ります。あとは、もう楽勝 8番を入れるだけ。しかし、玉の位置を見ると、キューボールと8番がポケットに向かって、これまた一直線に並んでいるではないですか。それを見たみんなは、「これで勝ちだな」といった雰囲気なのですが、実は私、真っ直ぐに打つのが苦手。「もうちょっと、まじめに練習してれば良かった〜!!」と、後悔しても時既に遅し。しかも、チキン・ガイズは、なんとか私の猛追を阻止しようと、野次を飛ばします。そして、私の不安は残念ながら的中。日頃から真っ直ぐに打つ練習をしていなかった私は、この簡単なショットも入れることができず、チキン・ガイズの前に涙を飲んでしまったのです。ゲームが終わった後、バー中の人たちが、「良いゲームだったよ」と、声をかけてくれましたが、私は己の未熟さを思い知らされ、基本の重要さを改めて痛感したのでした。そして、人知れず闘志を燃やし、「絶対うまくなってやるんだー!!」と、固く心に誓ったのでした。

ノリコのワンポイント・レッスン

バンク・ショット:テーブルのヘリをクッションに使って玉を打つこと。自分の玉を直接狙えない時や、玉の跳ね返りを利用して打ったほうが確実にポケットに入れられる時に、この「バンク・ショット」をします。

<今回のバンク・ショットの解説>
図のように、キューボール、8番、2番の玉が一直線上に並び、キューボールをついて2番の玉を直接狙えなかったので、テーブルの向こう側のヘリを使ってショットしました。この時、跳ね返ったキューボールは、図に示した通り、2番の端に当たるように打たなければなりません。ここが今回のポイントです。もし、2番の端にキューボールが当たらなかった場合、2番は、矢印2の方向には進みません。また、ショットの強さも重要なポイントの1つで、弱すぎるとポケットまで届かず、強すぎると玉に勢いが付きすぎて、狙った角度で打つことが難しくなります。その辺のさじ加減も、ハスラーへの道を左右するといっても過言ではありませんね。

プロフィール
ノリコ: 中学2年の時、アメリカで1ヶ月ホームステイ・プログラムに参加。全てが日本と正反対のアメリカに魅了され、「将来、ここに住むぞ」と心に誓う。高校で英語科に進むも、なぜか大学ではロシア語を専攻。大学卒業後は、なぜか某銀行のシステム会社で3年間勤務。現在、ハワイの歩き方編集部でインターン研修中。「人生に酒と笑いあり」がモットーの薩摩おごじょ。

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