第6回 トーナメント アナシア編
●ラインが見えた! よくゴルファーが、グリーン上のボールからカップに向かって芝の目を読みますよね。そういう感じなんです。玉を撞く時は、テーブルに這うように低い姿勢で構えるのですが、その時に、「この角度で狙うと入らなそうだなぁ」というのが感覚的に脳に伝わって、脳から「微調整せよ!」という指令が体の隅々にいきわたってくるようなんです。それまでは、キューを使ってポケットと玉の間の角度を測って打っていたのですが、そんなことをしなくても、玉を狙っただけで「入りそうだ」、「入らなそうだ」という判断ができるようになったんです。そのことに気付いたこの日は、感激で胸が一杯になってしまい、なかなか寝付けませんでしたね。「あ〜、早くまたビリヤードしたい」という考えが頭の中をずっと駆け巡っていました。 なぜか急成長した私ですが、これにはちょっとした秘訣がありました。毎回練習するたびに、ハワイアン・ブライアンのオーナーから言われた「右目で狙おうとしている」という言葉を思い出し、体も目も真っ直ぐに狙うことを常に心がけていたんです。そのせいか、右目で狙っていた私のフォームが少しずつ矯正されて、きちんと真っ直ぐに両目で玉を狙えるようになったようです。両目で狙ってる時というのは、キューの真上にあごがある状態になるんです。逆に、右目で狙おうとしている時は、あごがキューの真上にはありません。そうすると、自分が狙っている方向は真っ直ぐのように見えていますが、客観的に見てみると真っ直ぐではないんですね。そんな時は絶対といっていいほど失敗します。思っているように玉は転がっていきませんね。ともかく、ビリヤードの基本は、「真っ直ぐに狙い、真っ直ぐに打つ」なんです。でも、実は、これが一番難しいことなのですが…
●チップのメンテナンス ●スポーツバー「アナシア」でのトーナメント
サウス・ベレタニア通りにある「アナシア」というスポーツバーで、毎週日曜日午後6時から、トーナメントをやっているということを聞きつけて、早速行ってきました。ビリヤードのテーブル2台と、ダーツが5台ほどある小さいバーに、ハスラーたちが続々と集まってきます。中には、早めにきて一杯やっている人もいます。私も中に入って$10を払い、エントリーしました。6時過ぎ、参加者が全員集まったところで、バーのオーナーであるプリモがゆっくりとやってきて、トックリ型のプラスティックの容器に入れられた番号札を参加者に引くように指示します。その番号でトーナメント表を埋めていき、対戦相手を決めます。 私の1回戦は、「ジョージ」という人に当たりました。プリモに、「ジョージってどの人?」と聞くと、「あそこで酒を飲んでるのがジョージだよ」と教えてくれました。見ると、ビールを片手に大きな声でおしゃべりしています。「うわっ、すごい酔っ払い!」と思いながらも、挨拶に行きました。「ノリコです。あなたと対戦するの」と言って右手を差し出すと、ろれつが回らない状態で、「お〜、レイコ! よろしくな」といって握手をしてきました。「あの、私、ノリコなんですけど…」と訂正すると、「分かってる、分かってる、ノロコだね」ですって。おいおい… もう訂正するのも面倒なので、ノロコのままで対戦しました(笑)。日本人の名前に慣れていない人だと、やっぱり聞き取りにくいんでしょうね。しかも、大分アルコールが入っているようですし。そういえば、会社で電話を取って「ノリコです」と言ったときに、「お〜、ミラコー(ミラクル)」と言われたことがあります。アメリカの中でも、日本人観光客や移民が多いせいか、ハワイの人は割りと日本人慣れしている方だと思いますが、それでも発音はしにくいようですね。ただ、「ノロコ」は勘弁して欲しいですけど。しかし、この酔っ払いのおじさんですが、ビリヤードはかなりの腕前。おじさんブレイクでゲームを始め、ほんの数分であっけなく勝負はついてしまいました。その後は、敗者復活戦もあったのですが、それも簡単に負けてしまい、仕方がないので他の人の戦いぶりを見学していました。
今回のトーナメントは、参加者が9人。端数が出たらしく、プリモも参加していましたが、この人がすごい! 迷彩柄の帽子を頭にチョコンとのせ、白髭を口の辺りに蓄え、おぼつかない足取りで歩く、この仙人みたいなおじいちゃんがびっくりするほどうまいんです。プリモを良く知る友人に言わせると、「彼はアンビータブルなんだ」そうです。アンビータブル、つまり「不敗の男」という感じでしょうか。最初それを聞いたとき、「このおじいちゃんが?」と半信半疑だったのですが、キューを手にして戦うプリモを見て確信しました。「この人はできる!」。トコ、トコ、トコと歩いては玉を狙い、ほぼ99%の確率で外さない。対戦相手にとっては、一度のミスが命取りなんです。 プリモの1回戦は、ローランドというフィリピーノのおじさんでした。彼は、元フライ級のボクシング世界チャンピオンで、怪我をしてボクシングをやめた後、ハワイに移住してきたそうです。ハワイは日本をはじめ、アジアからの移民が非常に多い土地柄。彼もプリモに負けず、かなりの腕前で、トーナメントが始まる前の練習では全戦全勝。プリモVSローランド。かなり見応えあるゲームです。ローランドのブレイクで試合が始まり、ブレイクでストライプを入れたローランドが、引き続き玉をポケットに沈めていきます。1個、2個…と立て続けに5個を落としたところでミス。しかし、この段階で、テーブルの上にはストライプが1個残るのみ。「さぁ、プリモ、どう巻き返すのでしょうか?」。ソリッドのプリモも負けじと玉を撞きます。しかし、そのフォームのしなやかさといったら、この上ない! キューと体が一体となったような撞き方をするのです。キューが手の一部のような… うまくは表現できませんが、今まで見たことのないストロークに目を奪われている間に、8ボールを残すのみになっていました。これを入れたらプリモの勝ち。そう思うが先か、カーンという玉を撞く音とともに8ボールはコーナーポケットに消えていきました。「お見事!」。1回のミスを逃すことなく、全てのボールを入れたのです。この人は真のハスラーです! ●粋な計らい
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