Jazz Pianist Keiko Matsui
素敵な著名人をじっくりインタビューするこのコーナー、今回はブルーノート・ハワイでの初ライブで8月にハワイ入りした、ジャズピアニストの松居慶子さんにインタビューしました。リリースされたばかりの新作アルバム「ジャーニー・トゥー・ザ・ハート」が、前作「ディープ・ブルー」に続きビルボードでみごと一位を獲得し、日本人で初のビルボード2度一位の快挙を成し遂げた松居さんとはどういう女性なのでしょう?
ハワイで直撃インタビュー 第96回 世界で活躍するジャズミュージシャン、松居慶子さん(動画付き)
(2016年8月24日にワイキキのブルーノート・ハワイで撮影)
Myハワイ編集部(以下Myハワイ):ジャズピアニストを志したきっかけは?
松居慶子さん(以下松居):私は、レッスン時代、プロのミュージシャンにはなろうと思っていた訳ではなかったのですが、自然にこの道に入り、最初のお仕事が映画音楽制作(東宝映画「漂流」)でした。その後、コンサートで自作曲を演奏するという活動が始まり、いつの間にかプロの道に入っていたという感じですね。
Myハワイ:松居さんはジャンルで言うとジャズピアニストで良いですか?
松居:皆さんは、ジャズピアニストと聞くと昔からある、スタンダードジャズやスウィングする曲と思われるかもしれませんが、私のアルバムは、全米のビルボードチャートでは 「コンテンポラリージャズチャート」というジャンルに入ります。
Myハワイ:コンテンポラリージャズチャートにはどういうアーティストが属しますか?
松居:例えば、ジョージ・ベンソンだったり、パット・メセニー、スティングやシャーディー、ケニー・Gなどですね。
Myハワイ:初めてピアノを弾いたきっかけは?
松居:ごく一般的ですが、母親にピアノのお稽古に連れて行かれたことです。
Myハワイ:一番尊敬するミュージシャンは?
松居:素晴らしいミュージシャンは世界中にたくさんいるのでなかなか一人をあげられないのですが、ずっと好きなアーティストはスティービー・ワンダーとスティング。作曲家だったらバッハ、ショパン、ラフマニノフ。
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2016年8月のブルーノート・ハワイでのコンサートにて
Myハワイ:スティービー・ワンダーさんと一緒にコンサートをされたこともあるそうですね?
松居:911(アメリカ同時多発テロ)が起きた直後に、音楽を通して皆で祈ろうということで、ロサンゼルスの「ウェーブ」というラジオ局が招集をかけ、「ウェーブ・オブ・ピース」というイベントをやったんですね。たくさんの音楽家が集まって、最後にはスティービー (ワンダー)もサプライズで加わったんです! 他にもジェームス・イング ラム、パティー・オースティンなど。私のアメリカでのデビューア ルバムが87年で、今年で30年目になるんですね。これまでに出逢った友人アーティストたちが、普段はそれぞれにツアーしていて、なかなか一緒に集まることはないんですが、その時は、「こんな悲しい事では会いたくないけれど、音楽で祈りを捧げよう」と集結したんです。
このイベントで、「ディープ・ブルー」という曲をソロ演奏しました。この曲が入ったアルバム「ディープ・ブルー」は、実は、坂本九さん以来日本人で初めてビルボード誌で一位を獲ったというアルバムです(音楽業界誌「ビルボード」とはアメリカで最も権威があると言われる音楽ヒットチャート。坂本九の楽曲「上を向いて歩こう(Sukiyaki)」は 1963年6月にアジア圏内の歌手で初のビルボード週間一位を獲得)。
大きな会場に集まることは危険と言われていた厳戒態勢のアメリカだったので、そんな時に行くのは危ないから止めた方がいい、と周りから反対されましたが、「絶対大丈夫だから」と言って日本から渡米し、演奏したその晩のフライトで帰国して、子どもの受験の親子面接に成田から駆けつけました。イベントに居たパティー・オースティンが「もう慶子には頭があがらない」と言ってくれて(笑)。
東日本大震災が発生した直後には、日本の為のチャリティーコンサートが企画されたんですが、その時は、「今度は僕たちが恩返しする番だから、KEIKOにぜひきてほしい」と声をかけていただいたんですよ。
Myハワイ:東日本大震災の時も日本人アーティストとして唯一参加した、とお聞きしましたが?
松居:そうですね。「ジャズ・フォー・ジャパン」というアルバムのレコーディングに参加しました。東日本大震災があった3月11日、私は日本にいました。「これでもう人生が終わるのかな」と思った瞬間でしたが、同時に東北や福島であのような大変な事が起きているとは知らず…。
「LAのキャピタルレコードでレコーディングしているから何時でもいいから来て!」と言われて、行ってみると、そこには、マーカス・ミラー、TOTOのデヴィッド・ペイチ等々、アメリカのミュージシャンたちが日本の為に集まってくれていました。
こうしたビッグアーティストたちが、いかに日本を愛しているか、日本のファンに感謝しているかという気持ちが伝わってきて嬉しかったですし、日本の為に力になりたいという気持ちがとてもありがたかったです。
ニューヨークのセントラルパークで開催された「がんばれジャパン」というイベントでも演奏しました。あの頃、コンサートの度に、日本へのサポートや祈りに感謝していると話していましたね。
Myハワイ:その当時を振り返って特別な思いはありますか?
松居:震災後に東ヨーロッパツアーがあって、ツアーの最終地がウクライ ナのチェルノブイリ(1986年に現在のウクライナ、チェルノブイリ原子力発電所で原子力事故が発生した)の近くだったんです。コンサート後のサイン会の際、ある女性が涙しながら、「これで私たち と日本は、悲しい事だけど痛みを共有できるわね。これからも一緒に頑張りましょう。」と話しかけてこられました。その時、全く意図的ではなかったのに、 311の後のツアーの最後の場所がここであった事に何かご縁を感じましたね。
あの頃、コンサートで訪れた各地で、311が起きた後の日本人のマナーの素晴らしさ、災害の後で暴動が起きない事、支え合ってがんばっていることなど、「日本人って素晴らしいね」と褒められました。
私はただただ、「ありがとうございます。がんばって おられるのは被災された皆さんです」と言うばかりでした。
Myハワイ:今後のゴール(目標)のようなものはありますか?
松居:ゴールと言えるかどうかわかりませんが、海外では、アメリカだけでなく私の音楽が一人歩きしている国がたくさんあるんですね。ラジオや衛星放送やインターネットを通じて届いているんです。
世界のあちこちで、色んな理由で内戦や宗教戦争が終わらない場所があります。でも、コンサートでは、国境や宗教、人種や言葉の違いを乗り越えて音楽で皆がひとつになって調和した空気が生まれるんですね。だから、自分の出来る事は、自分のメロディを受け取ってアルバムにして、コンサートで捧げて平和な空気を増やしたい、それが私のミッション(使命)だ、と最近思うようになりました。
出来るだけ多くの街に実際に行ってコンサートを届けたいです。
Myハワイ:曲のインスピレーションはどこから?
松居:毎回、このアルバムのために生まれる曲があるはずだと、ツ アー中にはなかなか出来ないので時間を特別に用意します。
(アルバム作成の際には)ピアノの前に座って(音が)聴こえてくるのを待つのですが、あるときは自分の思い、例えば、命や人生に対しての思いから、またはツアーでの体験、色んな国や場所の自然や背景などから。
私というフィルターを通して生まれてくる曲たちには特別な思いがありますね。
Myハワイ:アルバム「ディープ・ブルー」がコンテンポラリー・ジャズチャートでビルボード一位を獲得した時の気持ちは?
松居:それまでは自分の音楽で旅ができて皆さんからファンレターをいただきありがたいな、という気持ちでしたが、やはりビルボードで一位になった時に、より多くの方に自分の音楽を知ってもらえる チャンスが出来て良かったと思いました。坂本九さん以来だったということで、そしてその15年後に(2016年8月5日リリースさ れたJourney to The HEART ジャニー・トゥー・ザ・ハートが)また一位になり、2度ビルボードで一位になる事は(日本人では)初めだということでありがたいな、と思いますね。
Myハワイ:新アルバムの「ジャーニー・トゥー・ザ・ハート」はどうやって生まれたのですか?
松居:87年にアメリカで最初のアルバムを出して以来、コンサートを重ねてきたバンドの形としてライブアルバムを完成させた後から、エレクトリックバンドとしての活動は完結したなという思いがありました。
そんな頃、ボブ・ジェームス(十数年前にピアノの連弾プロジェクトに私を誘ってくれて以来の友人で、私の大先輩でもありジャズピアニストの巨匠 )が東京のブルーノートでショーをしていたので駆けつけたのです。その時に、キューバーのベーシストのカリトス・プエルト(以下カリトス)が一緒に演奏していて、その音が良いなと思いました。ちょうどアコーステック・プロジェクトとして何かやりたいと考えていた時でしたので、そこで出逢ったカリトスと、同じくキューバのドラマー、ジミー・ブランリーと一緒にアコースティック・プロジェクト として昨年ブルーノート東京を含め日本ツアーをしました。 今までの作品260曲以上から選んだ自分の曲を新しいフォームで演奏するというツアーでした。そして、このフォームで次のアルバムを作りたいと思い、形になったのが「Journey to The HEART ジャニー・ トゥー・ザ・ハート」です。私のアコーステック・プロジェクトとしては第一作目です。

エネルギッシュなライブを披露!
Myハワイ:今まで色んなブルーノートで演奏してこられたと思うのですがハワイのブルーノートはいかがですか?
松居:最高ですね。もともとここ(ハワイ)がパラダイスだと思うし、会場も音もすごくよかったので演奏出来て嬉しいですね。私はニューヨークのブルーノートやBBキングというところでも演奏しているのですが、ハワイにブルーノートが出来て良かったなと思います。まだここに出来た事を知らない方も結構いらっしゃるので、ぜひ広めてくださいね。 昨日も3組くらいの方がたまたま日本から来られていてコンサートに来てくれて嬉しかったですね。
Myハワイ:ブルーノート・ハワイでの初日はどうでしたか?
松居:今回のライブは新しいアルバムからのフィーチャーなのですが、新しいアルバムを既に持っている方や、今まではずっとアルバ ムで聴いていてライブは初めてという方などもいらしてくれて良かったですね。私は来週からシアトルに行くのですが、それを知らずわざわざシアトルから来てくれた方もいらして、「来週も行くよ~」 なんて(笑)。
Myハワイ:ハワイは初めてですか?
松居:いえいえ、何回も来ています。昔マウイジャズフェスティバ ルに2度ほど出演したこともありますし、コンベンションセンターで開催されたフェスティバルに出演したり、私の単独のショーもありました。
初めて6泊することが出来たときは、日本の方々がハワイに住みたいと言われる理由がわかった気がしましたね。
Myハワイ:自由時間はどういうことされますか?
松居:公演期間はショーのためにエネルギーをセーブするのですが、「ここまできたのだから公演後に2、3日追加しよう」と決めてから3年ほど経ちます。インターナショナ ル・ジャズフェスティバルの後イスタンブールで3日くらい過ごしたのが初めで、今回はショーの後、ハワイ島に移動して、星空ツアーに参加し、カメと泳ぐ予定です。この島に居る間には、ノースショアのガーリックシュリンプも大好きなので、絶対食べに行きたいと思いますね。楽しみです。
Myハワイ:松居さんにとって音楽とは?
松居:自分の経験から言える事は、「皆の心をつなげる為にどこかから授かったギフト」だなと思います。
皆さんに音を聞いて自由に音の中で旅して欲しいですね。今回のアルバムタイトルに、「ジャーニー」という言葉を入れたのも、自分のこれまで30年間を振り返ったとき、ファンの方たちと全てを分かち合っていたんだと気づいたからです。というのは、人生色んなことがあっても、必ずコンサートが決まっていて、そしてアルバムを待っていてくれる人たちが待っていてくれた…こんな幸せなことはないなと思います。「皆がいてくれたからここまで来れた」 という感謝の気持ちでこのアルバムはできました。タイトルの「ジャーニー・トゥ・ザ・ハート」には2つの意味があって、一つはファンの心への旅。そして、もう一つは、自分自身・本当の自分を見つける旅です。
このような場を与えてくれた宇宙 やクリエーターに感謝をこめながら作った皆さんへのギフトがこのアルバムです。
Myハワイ:どうもありがとうございました。
[インタビューを終えて] 質問には穏やかな口調でしっかりと答えてくださるところはベテランの貫禄。ビルボードで2度も1位を獲得するという栄誉をにない、海外の大物ミュージシャンと一緒に被災地でのボランティア活動にも積極的に参加するグローバルなミュージシャンでありながらも、インタビュー中にお子さんのこともちらっと語られていた松居さん。音楽へのパッションはもちろん女性としても尊敬の念、次回は音楽以外で、成功と家庭のバランスの秘訣についてもぜひお聞きしたいです(Myハワイ編集部)。
[松居慶子プロフィール] 東京生まれ。5才からクラシックピアノを始め、高校在学中に映画音楽の作曲など音楽活動も始める。18才でヤマハと契約。その後独立して渡米。 1987年に発表した自主制作アルバム「水滴」が「ロサンゼルス・タイムズ」や音楽専門誌で絶賛され、アメリカのFM局の「スムースジャズ」フォーマットで中心的存在となる。以来、南カリフォルニアを本拠地にライブ活動を続ける傍ら、ライオネル・ハンプトン、フレーディー・ハバード、ジミー・スミス、マイルス・デイビスらのコンサートにスペシャルゲストとして出演する。 全米主要都市のほか、ワールドツアーも開始。フィンランド、モロッコ、アラブ首長国連邦、トルコ、南アフリカ、シンガポール、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ウクライナ、エストニア、ロシアなど、世界各地で演奏している。
(2016年9月更新)
松居慶子公式サイト: http://www.keikomatsui.com
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